こんにちは。秋葉原スキンクリニック 副院長の矢田佳子です。
木々の緑もまぶしい季節となりました。日に日に夏めいてきていますね。
夏になると、汗をかいて痒くなったり、海や山に行ってかぶれたり…、夏は皮膚炎が増える季節といえます。
今回は、皮膚炎の代表、「かぶれ」についてお話させていただきます。
いったい「かぶれ」って何?
「かぶれ」は、医学的には「接触皮膚炎」といい、皮膚に接触した物質により引き起こされる皮膚炎のことをいいます。
接触皮膚炎は、その成因により、刺激性接触皮膚炎とアレルギー性接触皮膚炎に分けられます。
また、発症に光を必要とするタイプのかぶれもあり、これば光接触皮膚炎と呼ばれています。
どんな症状が出るの?
突然の痒み、ひりひり感と皮膚の赤み、ぶつぶつはかぶれかもしれません
原因物質に接触した部位に一致して、境界のはっきりした赤み、腫れ、赤いぶつぶつ、水ぶくれが出現し、痒みやひりひり感を伴います。かさぶたが出来る場合もあり、症状が強いと、皮膚がむけたり、皮膚潰瘍のような傷ができることもあります。
一般に、刺激性接触皮膚炎と言われるのかぶれは、原因物質と接触したあと比較的早い時期に症状が出現し、痒みよりも、むずむず、ひりひりした感じが強く、ひどいときには痛みを感じます。
アレルギー性接触皮膚炎と言われるかぶれは、痒みが強いことが多く、我慢できずに掻いてしまうことで、原因物質と接触した部位を越えて症状が広がる場合もあります。適切な処置をせず症状が長引いた場合や、同じ場所に何度もかぶれが繰り返されると、その部位は皮膚が厚くなってごわついたり、色素沈着が残ることもあります。
かぶれには2種類ある
接触した物質の刺激によって発症する刺激性接触皮膚炎とよばれるかぶれについて
一次刺激性接触皮膚炎ともいいます。
接触した物質の刺激により起こるもので、原因物質と接触した部位に限って症状が出ます。はじめて接触したもので発症する場合もありますし、肌の状態の良いときには症状が出ず、角質層のバリア機能が落ちているような肌状態の悪いときのみに症状がでることもあります。
接触した物質の物理的・化学的な刺激により、角質のバリアが破壊され、皮膚表皮細胞が傷つけられたり刺激された時に細胞から出される物質が、皮膚炎を起こすと考えられています。
代表的なものを以下に示します。
急性刺激性皮膚炎
酸、アルカリなどを代表とする組織を障害する力の強い物質によるもの。その他、灯油、山芋・アロエ・イラクサなどに含まれる針状の結晶をもつ物質も刺激になることがあります。接触後数分~数時間と早い時期に発症します。
遅発性急性刺激皮膚炎
塩化ベンザルコニウム(消毒薬)、フッ化水素などによるもの。接触してから8~24時間後と遅れて症状がでることが特徴です。
蓄積性刺激性皮膚炎
1回の接触では症状を起こさないような、組織を障害する力の低い物質に繰り返し接触することで生じる皮膚炎です。慢性的に症状が続くことが多く、肌の状態によって症状が出る人と出ない人がいたり、重症度に差が出るなど、個人差が大きいことが特徴です。
物質へのアレルギー反応で発症するアレルギー性接触皮膚炎について
私たちの体には、自分と違う物質が入ってくると、これを異物として排除する働きがあり、この働きを「免疫」と呼んでいます。免疫は、本来体を守るためのものですが、この免疫反応が自分の体を傷つけてしまう場合があり、それをアレルギー反応といいます。
皮膚の最外側ある角質層は、外的刺激から肌を守るバリアの役割をしています。何らかの原因でこのバリア機能が低下すると、そこから異物が皮膚に入り込むことになります。
角質層の下にある表皮内には、ランゲルハンス細胞という細胞があり、外から入ってきた物質の情報をキャッチする役割を持っています。ランゲルハンス細胞が、入ってきた物質を自分の体にない異物と判断すると、ランゲルハンス細胞の働きが活性化します。そして、その情報を得たランゲルハンス細胞は表皮を抜け出し、リンパ節に移動します。
ランゲルハンス細胞からの情報をもとに、リンパ節にあるT細胞というリンパ球が、この異物に反応できるようになると感作性T細胞と呼ばれる細胞が完成します。そして、再び同じ異物が皮膚に侵入した時、「異物だ!排除しなければ!」という反応が起こると、リンパ節から感作性T細胞が皮膚へ移動し、様々な物質を分泌することで、皮膚にアレルギー反応を起こします。
そのため、アレルギー性接触皮膚炎は初めて触れたものでは起こりません。そして、反応は原因物質との接触後24~48時間後くらいに最も症状が強くなるのが特徴です。
原因物質は、非常に様々で、日用品(衣類、メガネ、洗剤、抗菌製品、ゴム製品など)、化粧品全般、植物(ギンナン、ウルシ科植物など)、食物(モモ、マンゴーなど)、金属(コバルト、ニッケル、クロムなど)、医薬品(外用剤、湿布など)が代表的なものですが、どんなものでも原因物質にはなりえますので、注意が必要です。
物質+日光でかぶれる光接触皮膚炎について
皮膚に付着した原因物質に、紫外線が照射されることで皮膚炎を生じる接触皮膚炎です。これも刺激性のもの(光毒性接触皮膚炎)と、アレルギー性のもの(光アレルギー性接触皮膚炎)に分けられます。
原因物質に触れたのみでは症状を起こさず、原因物質に紫外線が照射されたことではじめて症状を起こすことが特徴で、日光に当たりやすい部位(顔、うなじ、首、デコルテ、手背、夏は腕やすね)に多く見られます。症状は原因物質が付着した部位のみに出現します。
光毒性のある物質として有名なものはソラレンで、ベルガモット油やイチジク、セロリなどに多く含まれています。
光アレルギー性接触皮膚炎の原因として多いのは、サンスクリーン剤(代表例:ベンゾフェノン)、非ステロイド系消炎剤(代表例:ケトプロフェン、スプロフェン)です。特に、ケトプロフェン貼付剤(商品名モーラステープ)による光接触皮膚炎は、湿布を使用して数か月以上たった後でも、紫外線に当たると強い皮膚炎を生じる場合があり、注意が必要です。四角く湿布の形に症状が出ることが特徴的です。
接触皮膚炎はどんな時に疑うの?
- 原因物質に付着した部分に限り発疹がでており、境界がはっきりしている。
- 以前にかぶれを起こしたことがある物質に再度触れた。
- 特定の場所に行った後に発疹が出た。
- 同じ季節に同じような発疹を生じる(その季節の植物、花粉などが原因となっている)。
- 何らかの環境変化、ライフスタイルの変化があり、その後に発疹がでた。
- 仕事を休むと発疹が軽快する。(仕事で使用する何かにかぶれている可能性がある。)
- 治療でいったんよくなるが、やめるとすぐに発疹が再発する。
このような経過の場合はかぶれを疑い、発症時期、発症部位、良くなったり悪くなったりの変動があるか、職業、家事の頻度、症状がでた場所(自宅なのか職場なのか、屋内か屋外かなど)、発汗・日光との関連、化粧品使用歴、薬剤使用歴などを確認します。
どんな検査をするの?
かぶれは、原因物質を避けることが治療につながるため、原因物質を見つけることが重要になります。
蓄積性刺激性皮膚炎以外の刺激性接触皮膚炎は、原因物質が限られているため、問診により原因物質を推定することが可能である事が多く、原因物質を避ければ症状が改善します。
アレルギー性接触皮膚炎は、原因が多種にわたるため、詳しく問診をしても原因物質が特定できない場合もあり、パッチテストが有用な検査となります。
光接触皮膚炎が疑われる場合は、光パッチテスト(パッチテストに紫外線照射を組み合わせた検査)を行います。
パッチテストってどうやるの?
パッチテストは、疑われる物質を含ませたシール状のパッチを肌に貼り、反応を見る検査で、背中の上の方の皮膚に48時間(2日間)貼っておき、その後の反応をみて、陽性かどうか判定します。パッチを貼った2日後に1回目の判定、3日後に2回目の判定を行い、必要に応じて1週間後の判定があります。
1回目の判定のときにパッチを剥がすまで、その間2日間は貼りっぱなしになります。2日間は、汗をかく行為や、入浴ができなくなるため、夏の暑い時期は検査を避ける医療機関が多く、検査を希望する場合は最適な季節を選択する必要があります。
また、パッチテストは、検査するときの肌の状態によって判定が変わってしまったり、パッチテストをするときに使用するシールによって刺激性のかぶれが出る場合もあったりと、万能な検査といえない側面もあるため、診断は、症状やそれまでの経過などを併せて、総合的に行います。
※当院では、金属パッチテストと、パッチテストパネル®(S)を用いたパッチテストを行っています(要予約)。
※光パッチテストは行っていません。
金属パッチテスト:アクセサリーや歯科金属に使用されている代表的な金属15種類を調べることができます。
①アルミニウム、②コバルト、③スズ、④鉄、➄白金(プラチナ)、⑥パラジウム、⑦マンガン、⑧インジウム、⑨イリジウム、➉銀、⑪クロム、⑫ニッケル、⑬亜鉛、⑭金、⑮銅
パッチテストパネル®(S):日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会で選定された日本人がかぶれやすい物質(ジャパニーズスタンダードアレルゲン)24種のうち、22種類を調べることができます。
引用元:http://medinfo-sato.com/patch-test-panel/allergen.html
接触皮膚炎の治療法は?
原因物質が分かる場合は接触を避けることが第一です。
急性刺激性皮膚炎を起こすような、組織を障害する力の強い物質が原因の場合は、水道水ですぐに洗い流し、皮むけや皮膚潰瘍になっている場合は、やけどに準じた治療を行います。
そのほかの接触皮膚炎の治療の基本は、ステロイド軟膏の外用になります。痒みが強い場合は、掻くことで発疹が広がってしまうため、抗ヒスタミン剤の内服を併用し、痒みを抑えるようにします。
発疹が極めて強い場合は、短期間ステロイドを内服する場合もあります。
原因物質を避けることができれば、上記治療により症状は速やかに改善しますが、原因がはっきりせずに避けられない場合や、美容師や調理師など、職業柄原因を避けきれないケースも、残念ながら存在します。
その場合は、使用中の化粧品や石鹸、洗剤などを中止し、低刺激のものに変えてみるなど、皮膚に直接触れるものを見直し、保湿剤を使用して皮膚のバリア機能を高めるなどの工夫をし、症状の再発予防、改善を目指します。
しかし、残念ながら、慢性的に発疹が続きステロイド外用剤の継続をしなくてはならない場合もありますので、接触皮膚炎かな?と思った際は、自己判断で市販薬を使用する前に、速やかに皮膚科を受診し、症状が悪化したり、長引く前に早めに治療を開始することをお勧めします。
まとめ
- 接触皮膚炎は、刺激性とアレルギー性、光接触皮膚炎に分けられます。
- アレルギー性接触皮膚炎の原因検索には、パッチテストが有用です。
- 原因物質を避けることが第一であり、治療はステロイド外用になります。
- 原因を避ければ症状は改善しますが、原因が避けられない場合もあり、そのときは、皮膚に触れるものを見直したり、保湿剤でバリア機能を回復させたりして、症状の改善を目指します。
- 発症早期の治療が重要です。自己判断による市販薬での対処はお勧め出来ません。
- 治療をして肌の状態がよくなると、バリア機能が改善して、かぶれにくくなる場合もあります。あきらめずに治療を継続しましょう!